社会病理と精神衛生・7
ある男の子の自殺
高木 隆郎
1
1京大病院精神神経科
pp.84-85
発行日 1964年3月1日
Published Date 1964/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912193
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1.母の自殺
M君の父Sは和歌山県の某市に住む日給360円の沖仲仕だった。結婚前から酒ぐせが悪く,正確にいえばアルコール嗜癖者だった。仕事に出た折りは,真面目で,正直ものであったが,劣等感が,強く,素面ではまともに他人と話ができないほど気が弱かったが,それだけに毎日々々酩酊をもとめ,いったん酒に酔うと妻子をなぐったり,そうかと思うとM君に頬ずりするほどの愛情表現をしたり,ときには妻に手をついてあやまったり,感情は赤裸々で,衝動的となり一切の抑制を失った。3日に一度ぐらいは,仕事にも出ず朝から焼酎をのみ,また働きに出た日も,家にいれる金は日当のごく一部であった。
M君の母K子はいわば私生児で,近所に実母はいたがこの人はK子を産んだ後,正式の結婚をして世帯をもったもので,K子との関係を喜ばず,K子がときどき生活に困って訪れても冷たかった。自分の平和は乱されたくなかったのである。しかし,K子にしてみれば,この産みの親が唯一の身寄りであった。というのはK子が6歳のときこの母が嫁いだので,その後は,祖父のところで比較的厳しく育てられたのだが,この祖父もK子が17歳になったと気病死し,飲食店に住みこみなどして娘になり,23歳のときSと結婚したのである。
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