Medical Topics 医学の話題
よみがえった生命,他
Y
pp.82-83
発行日 1962年12月1日
Published Date 1962/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911813
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頸部の脊髄腫瘍の手術のために全身麻酔をかけたときのことである。麻酔の導入はスムースに行き,患者の状態もはじめは異常がなかったが,うつむきの体位に変えたとたんに脈拍が触れなくなり,皮膚は蒼白に変わって自発呼吸も止まってしまった。これは,どんな麻酔中にも決して忘れてはならない重篤な合併症,すなわち心臓の拍動停止だと判断して,すぐ患者をもとの上むきの体位に戻し,純酸素を使って,バッグによる人工呼吸をするとともに,手近にあるメスを受け取って,皮膚の消毒もそこそこに開胸した。案の定,心臓は止まっていたので,心臓マッサージをはじめた。約5分すると心臓の緊張が増し,しだいに心臓は拍動を開始して,十数分たつ頃には,血圧も正常にもどり,患者は眼を開けて痛みを感じているような顔つきをした。やむを得ず,この時の手術はいったん中止したが,約1か月後,再び横むきの体位で手術を行ない,現在,この患者は元気に生活を楽しんでいるそうである。
このように,本当に死んでしまった人を生き返らせるのは現在ちょっとできないことだが,たとえ心臓が止まっても,4分以内に処置すれば蘇生させることができる。それには早く心拍停止を発することがいちばんたいせつであり,ゆっくり心電図をとったりしている暇はないのがふつうである。心臓マッサージは開胸して直接行なうことが多かったが,最近では閉胸のまま,胸骨を強く脊椎に向かって押しつけても,じゅうぶんにできることがわかった。
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