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高杉一郎との一夕
長谷川 泉
pp.66
発行日 1961年9月15日
Published Date 1961/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911480
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静岡の看護協会総会に出席して,久しぶりに小川五郎氏に会つた。楽しい一夕であつた。小川五郎氏というよりは「極光のかげに」などの作家として知られている高杉一郎といつた方が通りがよい。ちようど,看護婦の社会的地位をめぐつての座談会を計画していたので,それに出てもらつた。
小川氏は,現在静岡大の英文学の助教授であるが,もとは改造社の「文芸」の編集長であつた。私が知り会つたのはその頃のことである。私はまだ東大の学生だつたが,それから約20年,お互に境遇も変わつたから,面会した時は,その間に流れ去つた歳月の経過をしみじみと感じた。シベリアの抑留生活を送つた小川氏の頭髪にも白いものがまじり,かつての気鋭の青年編集長のおもかげは,歳月の風化作用をけみして定着した柔和なものにつつまれていた。目下は共立女子大など東京の女子大でも教えているので,静岡と東京の二重生活であり,かつお嬢さんがソ連に留学中なので,その意味からすれば,三重生活である。近く奥さんがソ連におもむくという。そのことを述懐する小川氏の横顔に,生活というものの重量を私は感じた。
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