とびら
1時間だけお邪魔します
金子 光
pp.1
発行日 1961年9月15日
Published Date 1961/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911467
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相手の都合や時間をあまり考えないで,職場にでも私宅にでも,気がるに人を訪問する日本人の習慣は,よくいえばきさくな行為であり,悪くいえば甚しい無神経ぶりだといえましよう。外国のように予め約束した日時にだけ訪問して,他は遠慮するといつた相手をいたわり合う文化的な生活態度がどうしてつくれないのであろうと思うのは私一人ではないでしよう。たまたま電話で都合をきいて訪ねてくる人があるようになりましたが,その多くの場合の理由は,突然訪問したのでは,先方が不在であつたりして自分の用事がたせない,即ち,全く自分のためで,相手のためでないらしいのには呆れる他はありません。
しかし,私共は少し気を配ればできないことではないということも知らされています。或る時,若い知人から電話で「○日の○時にうかがいますが,1時間だけお邪魔をいたします」と連らくしてきました。そしてその当日,彼女は時間通りにあらわれて,予定の時間が来たら話は充分なしおえなかつたようでしたけれど,立ちあがり「あとはまたこの次に致しますから」といつて,私に時間の余裕があつたのでひきとめましたが,さつぱりと帰つていつたのでした。
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