特集 土
土と文學
長谷川 泉
1
1医学書院編集部
pp.71-75
発行日 1958年3月15日
Published Date 1958/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910570
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
都会のペーヴメントばかりを見て暮す人たちにとつては,土への感覚は薄れてしまつていよう。何層ものアパートに暮す人たち,その人たちにとつても窓べりのアクセサリーの鉢植えの一つかみの土からは,もはや何の感激も浮び上つて来ないかもしれない。その土,土—だが,私たちの父母は土と密着した生活をして来た。父母でなくても,少くも祖父母は,恐らくは,土と密着した生活をして来たのであろう。
この頃,人工衛星が打ち上げられ,宇宙世紀が喧伝されるにつれて,何か私たちの踏みしめる大地が,急にその重量を失つて来た感覚にとらわれる。地球すらが小さくなつてしまつた感じである。私たちの地球が存在する太陽系は,全宇宙のうちのごく一部分に過ぎないということになると,そしてその意識が現実の問題として強く意識されるにいたると,地球はその尊厳を失つたかに見える。大地というものの神通力は喪失されたかに見える。科学は宗教を追い越した。
Copyright © 1958, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.