特集 生命
人間の見かた—生物学の面から
八杉 龍一
pp.73-75
発行日 1958年1月15日
Published Date 1958/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910527
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
1.人間はどれだけ自分を知つているか
このあいだ東京の町を電車でとおつていたら,“人間とはなにか”という,ある教会の看板が目につきました。べつに珍らしいということではないかもしれません。しかしそれは,この世相のもとで人間がいかに生きかたに迷つているかということを,改めて私に感じさせました。
人間とは私たち自身なのだから,いまさら問うほどのことはないと,考える人もあるでしよう。だが私たちは,朝ごとに手にとる茶椀のもようを,どれほどよく知つているでしようか。身じかなものも,とくべつの機会がなければ,あえて関心の対象にはならないものです。人間自身についても,同じではありませんか。私たちは,病気になつた場合,病気をかかえた場合,裁判しなければならない場合,人種問題にぶつかつた場合などに,はじめて人間という存在について真剣に考えだすのです。
Copyright © 1958, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.