特集 生命
無機物から生命まで
白井 俊明
1
1東大理学部
pp.69-72
発行日 1958年1月15日
Published Date 1958/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910526
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1.無機物からアミノ酸
生命とは何かということから論じなければならないかも知れないが,ここではあまり抽象的な議論をしたくないので,常識的な生命をもつ細胞のようなものが無機物から作ることができるかどうかということについてのお話をしてみることにしよう。それでもまだ生命をもつということをいくらかでも説明するとすると次のように言えよう。今日の生物化学的研究によると生物体の生命現象を示すところのものはタンパク質である。そのタンパク質からできているものが代謝作用をすることができればそれが生きていることである。その代謝作用というのはまわりからある物質をとり入れて同化し,また同時に異化をおこしていくことなのである。
しかし無機物といつても何でもよいというわけではない,今日地上で生命をもつているものは酵素70,炭素18,水素10.5%が主であと1.5%ばかりが窒素,カルシウム,カリウムなどであるとされていて,それを作る母体になるものもこうした元素を含む無機物でなければならない。この点について近年の宇宙構造論や地球化学の研究の結果は生物のできはじめた今から60億年の昔は地球の表面は今日のような水,酵素,窒素の組織ではなくてメタンCH4,水H2O,アンモニアNH3,水素などであつたであろうとされている。
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