講座
脳溢血の病理と治療
橋本 康夫
1
1聖ルカ病院内科
pp.6-9
発行日 1955年11月15日
Published Date 1955/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909968
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脳溢血について,病理と治療を述べるのであるが,教科書にあるようなことを茲に繰り返しても無益であるから,看護に関して必要な病理及び治療に関する事項を重点的に述べてみたいと思う。
〔1〕脳溢血は高血圧のある人に多くみられる。血圧の高いことは,出血を起し易くすることは,確かであるが,血圧が高いだけで,脳出血が起るのではない。脳の血管に損傷があることが第一の原因である。損傷のない脳動脈は正常血圧の14倍以上に高まらなければ,破れないという実験があるが,こういうことは,生きている人間ではあり得ないことである。それで脳出血は,脳動脈に病的変化があつて,破れ易くなつて居るところに血圧が高くなるから,破れるのである。高血圧の患者に脳溢血が起りやすいのは,そのような人では血圧が高いばかりでなく,脳の動脈に硬化症があつたり,血管痙攣があつたりして,血管壁が弱く破れ易くなつて居るからである。血圧が高いことが,脳溢血を促すことは事実であるから,なるべく血圧が高くならないようにするのは,脳溢血を予防することになり,又既に出血が起つた後も血圧を低くすることは出血を止めるためには,有意義であるが,瀉血をしたり,血圧下降剤を投与したりして,やたらに血圧さえ下げればよいのではない。既に血管に病変かおり,狭くなつて居るのに,血圧をあまり下げて,血流をゆるやかにすることは出血は起らないが,そこに凝血を生じて,閉塞して脳軟化症を起す虞れがある。軟化症のある局所には,その内に,再び血圧が高まれば,出血も起る危険がある。
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