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私の考える「生きがい」
宮島 昌子
pp.54-55
発行日 1955年8月15日
Published Date 1955/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909897
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私は先日,一人の男の子が道端でリンゴを丸かじりしているのをじつと眺めておりました。夕暮時でした。リンゴの赤さがその子の頬を染めていました。よく見ますとそのリンゴには一カ所腐つた所があるのです。それでもその少年は腐つた所をよけて,大して気にもとめる様子もなくその周囲丈をかじりながら充分に満足気に見えました。その少年は一ヵ所リンゴが腐つているからといつてリンゴ全体を捨てるようなことはしなかつたのです。どんな子供でも,たつた1ヵ所のキズのために,まるごとリンゴを捨る様なことはしないでしよう。半分だつて捨てないかも知れません。
私は黙つてそれを傍観していた時に,すべての人の生涯にも汚点のあることに想いをよせました。私にも勿論あります。自分ではどうすることも出来ない肉体の刺があり又心の刺があります。弱点があります。そして幾度となくこの刺が私を悩まし,暗い影を投げかけ,楽しくあるべき仕事が重荷となつたり,感謝であるべき日々がともすると不平がちになつたりするのは,すべてこの刺のためなのです。
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