随想
入院雑感
北 博正
1
1東京医科歯科大学
pp.94-97
発行日 1955年4月15日
Published Date 1955/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909803
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夏の初めに籠球の試合に出場,第一回戦で敗ければよかつたものを,学生相手に奮戦力斗の甲斐あつてか,準決勝に進み,あわよくば優勝をと欲を出したのが運のつき,年齡も考えず,コート狭しとかけずりまわつている最中,右足首に物すごい衝撃を感じたまゝ,腰を抜かしてしまつた。そつと手をやると,アキレス腱の輸廓が消え失せている。アキレス腱断裂だ。早速担架で附属病院の整形外科にかつぎこまれ,すぐ手術ということになつたが,あとに大事な会議が控えているため,3時間余りまつてもらい,これを済ませ,どうせギブスで固められて充分に動けないというので,仕事も整理し,また排便も当分難しいと考えられたので,苦労してこれも済ませ,夕方手術室に運びこまれた。目隠はことわつて,時計をみたり,立会の教室員の顔を眺めたりしていたが,局麻とはいえ,結構いたいのには驚いた。何しろズタズタに切れた奴を丹念に縫い合せるのだから,時間もかゝり,途中で煙草が吸いたくなつて閉口したが,約2時間ほどかかつて,大腿部までギブスで固められ,運搬車で病室に運ばれ,こゝに約1ヵ月の入院生活がはじまつた。
私はかねがね病院管理や看護について大いに関心をもつていたので,この生活は私にとつて大変勉強になつた。私の病室は2度の戦災で全滅した病棟中,戦後最初に建てられたバラツク病棟で,設備がよいとはお世辞にもいえない所である。
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