発行日 1954年6月15日
Published Date 1954/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909575
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私はずいぶん昔から,看護婦さんと仲よくなる癖がありました。それと云ふのも,小さいときから看護婦さんと馴染が深かつたからかもしれません。
むかしむかしそのむかし—,私がまだ五つか六つの頃から,私の母は胸が悪くて海岸の村で養生しながら暮してゐました。そしてその母の病床の傍にはいつも白い服を着たきれいな着護婦さんが坐つていて熱をはかつたり,お藥をのませたり躯を拭いたりしてゐました。そのひとの名は「片山さん」と云ひました。幼い私が何十年たつた今日まで覚へてゐるほど,その名を心に刻みこまれたのは,母が「片山さん片山さん」としんからそのひとを好いてゐたのと,母が亡くなつたのちも姉が思ひ出話しに「片山さん」を懐しがつて話題に度々のぼらせたためだと思ひます。
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