連載小説
三つの輪(第9回)
関口 修
pp.59-62
発行日 1953年12月15日
Published Date 1953/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909479
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サラ,サラ……とガラス窓にふれるかすかな音に,(雪かしら?)と治子は,読みさしの雑誌を伏せて身体をおこしかけたが,肩に沁みいる寒さに,また横になり,足の先を毛布でくるくると纒むと,ベットの中にひろがつてゆく体温で,身体がやわらかく暖まつてゆく気持ちよさに,いつか寐入つてしまつた。目をさました時は,窓が明るくなつていた。
(何時だろう—)と時計を見ようと身体をのりだしながら,いつもの癖で机の上の観音の像を眺めた。するといつも微笑を浮べている観書さまの顏に,ほのかな愁いがかかつている。ハツと思わずはね起き,像を掌に載せてわずかながらかかつている夜の塵を払つてみたが,何か不吉な思いがしてならなかつた。それでパジヤマの上に白衣をはおつて廊下にでた。カーテンをひくと,外は花が散るように雪がみだれて降つている。宿直室から洩れる朝のニユースに,聽くともなしに耳を澄ますとラジナはポツンと止んだ。誰かスイツチを切つたらしい。(オヤ?)と思つているところへあわただしいスリツパの音がして,走つて來たのは病室係の桑木看護婦だつた。
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