連載小説
三つの輪(第3回)
關口 修
pp.60-63
発行日 1953年6月15日
Published Date 1953/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661907322
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(5)小羊の目
電報は宏子からであつた。
「アスアサ八ジツク」—混雑している降車口で,人の群に揉まれながら,治子は昨日受けとつた電報の文句を口の中で繰り返して,いろいろに考えてみた。何の用で來るのか,それとも遊びに來るのか—どちらにしても,二月ぶりで宏子に逢えるのがたのしかつた。今朝も事務へ休暇をとりに行つたら,(早々と大分御機嫌ね,何かいいことがあるの?)とからかわれ,(え,とつても……)と顎をしやくつて飛ぶようにして淺草へ駈けつけた治子だつた。
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