連載小説
三つの輪(第5回)
関口 修
pp.47-50
発行日 1953年8月15日
Published Date 1953/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909391
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(8)花瓶
たしかに見覺えのある顔だつた。がちよつと思い出せなかつた。宏子はヂッと女を見つめた。それを—自分を咎めるとでも思つたのか,女は深いまなざしで宏子を仰いだ。しかしうろたえた目ではなかつた。眞実な,そしてぬきさしならぬ冷靜な目だつた。しかもその目のどこにか本能的なひらめきがあつた。寄るべないものが,何かに縋る瞬きだつた。
(どうぞ誤解しないで下さい。仕方がないのです……)
額にかかつた髪には油気がなく,化粧をしない荒れた顔を伏せながら,女はいつた。
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