灯影 ブックレビュー・4
—ウイラ・キャザー作 濱田政二郞譯—「私のアントニーア」/—村山午朔編,濱田靖一畫—「育児畫譜ゆりかご」
石垣 純二
pp.44-46
発行日 1952年4月15日
Published Date 1952/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661907033
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キヤザーは先年亡くなつたアメリカの閨秀作家です。ヴアイニング夫人が,「あなたの一番好きなアメリカの作家は」と問われてキヤザーと言下に答えたそうですが,その氣持がわかるようです。キヤザーの描く人間像は素朴で暖昧があふれています。譯者もイギリスの,肺病で若く死んだマンスフィールドとの對比を語つていますが,たしかにマンスフィールドをすぐ連想させるものがあります。ただマンスフイールドが生地ニユージランドを舞臺にして樂しかつた幼年時代への郷愁を,作品一ぱいにたぎらせているのに對し,キヤザーは同じく生れ故郷の西部の大草原や,その間に點在する小都會を舞臺にして,そこに生れて死んで行く生活力と人間味にあふれた自然人たちを緻密に描寫しているわけです。
この小説の主人公であるアントニーアという女性は,キヤザーの幼な友達の實在の人間をモデルにしたそうで,昨年ライフ誌がキヤザーの小説の舞臺を幾枚かの美しい寫眞で紹介したとき,このモデルの老婆も大きくうつゝていました。80何歳とかのシワだらけのおばあさんでしたが,奇妙に生き生きした表情と魅力を持つた異樣なおばあさんでした。私は今でも,そのちよつと仰向いて微笑んでいる顏が,まざまざと目ぶたに浮びます。
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