人物のぞきめがね
貫祿の東大橋本總婦長—不可能のないねばり強さが本領
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pp.44-45
発行日 1951年5月15日
Published Date 1951/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906858
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天下の東京大學附屬病院の橋本總婦長が,裾の長い肩の盛り上つた白衣に20貫近い體躯を包み,ナンバーワンの番號札と婦長の徴章とを胸にして總婦長室の大きな机を前にしている姿は,實に頼もしい感じを人に與える。この總婦長は10有餘年柿沼内科から一歩も動かず,最後にはそこでの一婦長として勢力を持つていた。頭の禿げかけた病院長級の人達が冗談半分に「いや,橋本さんにはイジメられましたね」と懷かしげに親しく述壞することでも東大のぬしであることが分る。
この數年の間に東大附屬病院長がバタバタと3代も變つている。そしてその主な原因は看護婦の問題についての責任引退であつたが,この時女史は少しも騒がず只靜かに息をつめ,ホトボリのさめるまでじつとしていた。何か事が起つた時に責任を感じるその感じ方が職を辭するということだけで濟むとは限らない譯で彼女のこのねばり強さは一流のもので感心に値する,このねばり強さを新らしい看護婦の教育,業務,生活の向上面に於て發揮して貰いたい。またお偉いお醫者方,頑として動きの取れない事務關係に發揮し,ネバリ抜いて活躍してほしいものだとはかまびすしい人の噂である。一つの科が一つの病院の樣なスケールを持ち,獨立した機能を持つているこの大病院の16科のそれぞれ一癖ある婦長達の上に立ち,その大世帶を切り廻わすことは,如何に經驗豊かな,才能に富んだ婦長といえども一應逃げ出したくなる程大變なことだと思う。
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