発行日 1951年1月15日
Published Date 1951/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906781
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鬱病患者から受ける最初の印象は,力なくうなだれて如何にも生氣に乏しい。低聲で口數も少く,ぼそぼそと單調な話し振り,ものうげに眼を伏せて,顔色は新鮮味に缺け,動作は動き少く緩漫である。これらの表現は何れも心身のあらゆる機能低下に基いている。
精神症状の前景に立つものは,時に苦悶を伴つた哀愁感と,精神活動の澁滞とである。ごく輕い場合には,はつきりした哀愁感はなく,すべての感情的共感のなくなつたことが苦痛として訴えられる。何事にも興味がなくなり,以前樂しみであつたものが反つて煩いとなる。親しい人々に對する親愛感が失せ,喜怒哀樂の情も消え去つて,今までとはうつて變つた無感情な人間になつてしまつたと嘆じられる。頭には靄がかかつた樣で晴々しない。氣が滅入り,鬱々として樂しみを知らない。一日の中でも氣分の動搖があり,朝の眼覺めは惡く,夕方になるにつれて晴れると云われる。やゝ重症になれば,ほとんどが動機のない哀愁感に充されている。すでにその表情に悲しみを湛えているが,内に藏している場合でも,問えば必ず人生に對する空しさや,自己に對する情けなさを聞き出すことができる。將來に對する希望もなく,過去の思い出も暗く,すべてが後悔の種になる。或は過去の幸が現在のみじめさを一層増すばかりである。
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