発行日 1950年9月15日
Published Date 1950/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906712
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小兒科病棟において
朝禮を終えて勤務に向う私の耳にはもう既に朝の音樂が遠く廊下を距てゝ小兒科病棟から聴えてくる。夏の眞晝に鳴きしきる蝉のコーラスのように,賑やかにそして疳高く私を觀迎して呉れているのである。T.P.R.を計り,清拭,沐浴を濟ませ,さつぱりした寢卷きに着替えさす頃は,汚れてワァワァ泣きたてる小惡魔は,ツルンとした頬ぺたを桃色に光らせてヱプロンを前に朝の食事を待つている可愛い天使に早變りしてしまう。そして看護婦の白い糊づけされたユニホームはクシャクシャに顏中汗だらけ足は棒と化すのである。
病氣が重ければ重いで物いえぬ子供の泣き聲,苦しみ方は胸をかきむしられるような不安を看護婦に與え,一刻のゆとりもない看護の連續で幼ない生命を見守るのであるがこのような小兒の顏に赤みが増し,目が輝いて來始める時,小兒科勤務の看護婦には、他で味わうことのできねいような喜びを與えられるのである。
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