名詩鑑賞
きけわだつみのこえ
長谷川 泉
pp.51-52
発行日 1950年9月15日
Published Date 1950/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906711
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映畫にもなつた日本戰沒學生の手記「きけわだつみのこえ」は東大協同組合出版部の中に設けられた日本戰沒學生手記編集委員會の手によつて公刊された。發刊以來十萬を越え,戰後のベストセラーズの一つとなつた。東大戰沒學生の手記「はるかなる山河に」に續き,より周到な用意と全國的な熱意の中に結晶した著作である。多くの團體の協力により,また新聞,ラジオを通じて廣く全國の大學高專出身の戰沒學生からつのられた遺稿からなり,集つたもの309人の中から選ばれて収録されたものは75人を數える。
かつて私達は,戰争の犠牲となつた若い魂の記録である「ドイツ戰沒學生の手記」を讀んだ。日本戰沒學生の手記「きけわだつみのこえ」は,それとはニユアンスが違う。何よりもこの本には,眞實を見る目をふさがれ,虐げられ,酷使され,そして殺されていつた青春の魂が,しいられた死と戰決しながら血涙の文字をつゞつて行つた秘められた人間性の絶叫がみちあふれているからである。
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