発行日 1950年9月15日
Published Date 1950/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906710
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「エレーナ,僕は病氣になつても直ぐに意識を失つた譯ぢやないんだし,僕は自分が破滅の淵に臨んでるのを知つてたよ,熱に浮されて,膽言を云つてる時でさへ,僕に死が迫つてる事を知つてゐた。朧ろげながら感じてゐたんだ。僕はこの世の生活にも,お前にも,その他あらゆるものに別れを告げ,希望にも左樣ならをしだ……所へもつて來て,この突然な再生だ,暗闇の後でこの光りだ。お前は……お前は……僕の近くに居てくれる。僕の傍には……お前の聲が聞こえ,お前の息づかひが感じられる……これはもう僕の力以上なんだ!僕は猛裂にお前を愛してるのを自分でも感じてゐる。そして僕はお前が自分から僕のものだといふのを聞いてゐる。僕は何を爲でかすか分らないんだ……さあ歸つてお呉れ!」
「ドミートリイ……」とエレーナは囁いて,彼の肩に顏を埋めた。彼女はたつた今彼の氣持が分つたのだつた。
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