名詩鑑賞
—與謝野晶子—君死にたまふことなかれ
長谷川 泉
pp.30-31
発行日 1950年1月15日
Published Date 1950/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906596
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「夜の帳にささめき盡きし星の今を下界の人の鬢のほつれよ」—これは「みだれ髪」卷頭の第1首である。與謝野晶子の名は「みだれ髪」ときりはなすことはできず,その「みだれ髪」はこのような濃艶な情感で全卷がみたされている。人間の本能をしばるあらゆる封建的なものからの脱出,因襲道徳への反抗,ほとばしる戀愛感情,ほしいまゝな感情,自然にたいする浪曼的人間化,奔放で多彩な空想の亂舞が「みだれ髪」を貫くテーマであつてみれば,晶子が和泉式部いらいの情熱歌人とうたわれたのも,もつともなことである。
このような情熱歌人の名が今日クローズ・アツプされるのは,しかし,1卷の「みだれ髪」だけをもつてするのではない。「君死にたまふことなかれ」の詩は,おそらくは,日本が丈化國家として新生のスタートをするにさいして,肺肝に銘ずる強さと格調をもつてひびくものであろう。「君死にたまふことなかれ」の詩によつて,愛と美の歌人はさらに自由の詩人としてその名を永く記憶されるであろう。
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