わたしの大切な作業・第23回
朝の「お勤め」
内田 樹
pp.201
発行日 2020年3月15日
Published Date 2020/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001202017
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9年前に神戸に自宅兼道場を建てた。2階に住んでいて、階段を降りると、そこが道場である。究極の職住近接を達成したと思って喜んでいたのだが、「家の中に道場がある」というのは、ただ、道場が空間的に近いということとは別のことだということにしばらくして気がついた。
朝起きて、道場の扉を開くと、「鎮まった場」がそこにある。「鎮まった」というのはノイズがないということである。物理的なノイズに限らず、心を乱すようなノイズがない。そこだけ他と違う。武道というのは「超越的なもの」を受け入れて、心身を調えて、それを発動させる術であるから、道場もどこか「浮世離れ」した場でなければならない。だから、道場を作るときには神棚を勧請し、合気道開祖 植芝盛平先生の写真を正面に飾り、2代道主 植芝吉祥丸先生が揮毫された「合気」の扁額と、私の師匠である多田 宏先生の「風雲自在」の書を道場に掲げた。すると「場が調う」というのがどういう感じなのか、身にしみて分かる。
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