発行日 1948年6月15日
Published Date 1948/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906332
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自然科學の研究がすべて俗に五官と稱せられる感覺器をたよりに進められることは言うまでもありませんが,中でも視覺—眼はわれわれの最も有力な武器と恃むところのものです。直接に眼で觀察することのできない對象できえ科學者はなんとか形を變えてそれを眼のとどくところにもつてこようとします。よい例が電氣です。今日の文明を支えているとも言える電氣,眼に見えないあの電氣の力はいろいろな計測器のゲージの上に姿を變えてわれわれの處理をうけていることは誰もよく知つている通りです。耳で聽く音もそれが科學的な研究の對象となるためにはまず紙の上に波として記録されるのが通例です。
ですから,眼で見えないほど小さな細菌がひきおこすいろいろな傳染病の本性が長い間わからずにさまざまの見當違いの説が世に行われていたのは無理のないことだつたと言えましよう。顯微鏡の發明が人の眼の力を數百倍も強化して微生物の世界を人々に繰りひろげてみせて以來傳染病の原因は段々と明るみに出て來たわけです。
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