特集 —がん化学療法—症状マネジメント15のQ
Q9 脱毛—初めての抗がん剤投与の前の晩.脱毛があるという説明をうけて,患者さんが泣いていました.
中口 智博
1
,
清水 千佳子
1
,
渡辺 亨
1
1国立がんセンター中央病院内科
pp.432-434
発行日 2002年5月1日
Published Date 2002/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661903959
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がん化学療法の副作用として脱毛が生じることは一般によく知られていますが,そのこと自体が生命予後に影響を与えたり身体的苦痛を直接引き起こすことはないという認識が,医療者のこの問題に対する関心や配慮を不十分にしがちです.しかし,毛髪は人体の構造物の中でもとりわけ美容上の意義が大きい部分であることから,患者さんが脱毛による容貌の変化をボディイメージの負の変容と捉えて精神的苦痛を味わい,それが自尊心の低下につながって社会生活に支障をきたしたり闘病意欲の低下を招く危険性を考慮する必要があります.男女を問わず,脱毛が患者さんに与える精神的ストレスは想像以上のものであることに思いを至らせて,闘病生活のQOLを保つための援助を行なっていくことが大切です.
ここでは抗がん剤の副作用としての脱毛について述べますが,抗がん剤治療中,治療後の脱毛すべてが抗がん剤のみに起因するとは限りません.ヘパリン,プロプラノロール,大量のビタミンA,蛋白同化ステロイド剤など抗がん剤以外の薬剤が脱毛の原因となることもありますし,甲状腺機能低下症のような内分泌異常も念頭におく必要があります.また鉄欠乏や栄養障害でも脱毛は起こりえます.脱毛の原因の鑑別のためには,患者さんの状態を複眼的に把握する必要があります.
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