特集 性暴力被害者の支援—看護婦だからできること
性暴力による慢性的な健康障害
白川 美也子
1
1国立療養所天竜病院小児神経科・精神科
pp.1002-1004
発行日 2001年11月1日
Published Date 2001/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661903844
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- サイト内被引用
はじめに
性暴力は,精神と身体の結び目である性という領域に対する暴力であり,それは長期にわたって,心身双方に深刻な影響を及ぼす2).症状の慢性期とは,一般に,心的外傷となった出来事や遅発性の症状の出現から,6か月以上を過ぎた時期をいう.この時期は,急性期の圧倒的な心身撹乱状態からは,いちおうの回復はみている.しかし,いわゆる「外傷性記憶」——出来事の衝撃があまりにも強烈なため,通常の記憶処理がすすまないことから形成される「出来事のときの,視覚・触覚・聴覚などの五感や,感情,思考,認知などがすべて凍りついたような記憶」——によって,出来事がまるで現在も続いているかのような衝撃が心身にもたらされ続けている,
すなわち,この時期の当時者は,時間がたって落ち着いたのではないかと周囲がみるわりに,主観的にはまったく変化のないように感じられる自分の状態に苦しみ,疲弊しきっている.「もう忘れてもいいころじゃない」という言葉がどんなに酷かは,この外傷性記憶の本質である,「無時間性・鮮明性・言語になりにくさ」を理解してはじめて了解されるだろう.
Copyright © 2001, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.