特集2 『発達障害ゆっくりていねいにつながりたい当事者研究』を読む
Review
4.発達障害当事者研究と物理理論の間に通い合うもの
小嶋 泉
1
Izumi Ojima
1
1京都大学数理解析研究所
pp.60-62
発行日 2009年3月1日
Published Date 2009/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661101408
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「アスペルガー症候群」について限られた知識しかもたない私がこの本に巡り合えたのは、ひょんなご縁でお知合いになった武術研究者・甲野善紀先生の懇切なお引き合わせの賜物である。著者の綾屋紗月さん、熊谷晋一郎さんの明晰な記述に引き込まれ、多忙を極めた時期、1週間足らずで読み終えた。
綾屋さんは、既成の自閉概念に囚われず自らの体験の具体的記述を通して、日常生活・対人関係で直面する種々の深刻な困難が、身体内外から来る多様な情報を取捨選択・集約し「意味や具体的行動へとまとめあげ」る過程の遅延に由来することをつきとめる。とくに視覚情報の場合、外界からのスナップショットデータが生のまま大量に脳内に記憶されて「フラッシュバック」現象を起こし、「感覚過剰」と「感覚鈍麻(のように外からは見える現象)」の両極を揺れ動いて、身動きが取れなくなる。そういうさまざまな「症状」を綾屋さんは詳細に観察・記録し、その意味とメカニズムを解き明かしつつ、少しずつ困難を軽減し克服する方途を探ろうとする。それが結果的に、“適切な認識、適切な判断・行動決定のためには、正確で詳細なデータが多くあればあるほどよい”という我々の常識の盲点を鋭く突いていることに、私は深い感銘を受けた。
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