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お寺の住職によるスピリチュアルケア
本書は,副題が示すように仏教的見地からのスピリチュアルなかかわりの入門書として書かれたものである.著者,大下大圓氏は飛騨千光寺の住職であり,スピリチュアルケアワーカーであり,音楽療法士である.12歳で仏門に入り,高野山での厳しい修行の後にスリランカに渡りさらに修行を重ね,帰朝されてから多岐にわたる領域で活躍されている.評者は,音楽療法関係のご縁で今回任を与えられたが,そのような修行の威圧を微塵も感じさせないお人柄が伝える存在感を,不思議な感触をもって味わう1人である.
本書の内容は6つに分かれており,第1章「なぜこころのケアが必要なのか」では,まさにご自身を曝け出した書き出しで,対象者に向かう姿勢が「説教」から「思いを聴く」に変化していった経過を静かな語り口で啓かれている.第2章「スピリチュアリティとスピリチュアルケアを定義してみる」では,日本人にとってのスピリチュアルケア(あるいは,むしろケアリングというかかわりのプロセスが示されているようにも感じられたが)が説かれ,〔いい加減さ〕という独特の用語でその核に触れている.第3章「仏教のケア論とスピリチュアリティ」では,仏教思想(哲学)への簡略ではあるがダイレクトな解説が「看護」にからめて紹介され,現代と決して隔たった人間観ではないことが幾重にも納得させられる.これは,著者の博識がなせる業だと感服する.第4章は「現代におけるスピリチュアルケア」と題して3つの事例が紹介されている.いずれもそのかかわりから,人を「慈しむ」という心が伝わってくる.第5章「家族にとってのスピリチュアルケア」では第4章を受けて,異なる角度で仏教的見地からの新たな看護モデルが提唱されている.しかし,それは同時に日本に古来より親しまれてきたはずの「家庭看護」の再考でもあるととらえられる.病む人に寄り添い,手をかざし,触れ合いの相互浸透がいかに重要なことであったかを思い起こさせる.第6章「スピリチュアルケアの展望」では,著者の多領域への活動の展開が紹介され,「スピリチュアルケアとは人間同士の関係性を重視した“人類希求のワーク”である」とまとめられている.
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