連載 とらうべ
「正義」はどこから来る
徳永 進
1
1鳥取赤十字病院内科
pp.275
発行日 1991年4月25日
Published Date 1991/4/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611903272
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子供のころに見た映画やテレビには,農民や庶民をいじめる悪者が登場して,思う存分悪事を働いた。しかし最後には,白馬に乗った正義の使者がやってきて,悪者をやっつけた。子供のぼくらは,正義の使者が登場すると拍手し,見終って満足した。正義は間違いなくあり,正義の使者は必ず来るものだと信じた。あの正義の使者は,いったいどこからやってきたのだろう。
医者になったころ,病気の診断をつけることができなくて困った。異常がわからないということもあるけれど,その前に正常ということがわからなかった。わからなかったが,正常という世界が決められてあり,それに入らないものが異常であると思った。以来,正常の血圧,正常の心音,正常の尿に,正常の血液,正常のレントゲン写真にCTにエコーにMRと,正常の世界は限りなく広がった。白衣のポケットには「正常値と異常値」というハンドブックが入っていた。正常値は正しく,異常値は悪であるかのようだった。
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