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2008年7月28日,前金沢大学がん研究所腫瘍外科教授磨伊正義先生がお亡くなりになりました.今年2月に開催された第80回日本胃癌学会総会ではお元気な姿を拝見しましたが,その半年後に突然の訃報に接するとは思いもよりませんでした.胃癌学会のときに先生が長い間にわたって積み上げられた癌研究や診療についてわかりやすく記述された著書『「がん」根治治療から休眠・緩和療法まで』(悠飛社,2007年)をいただきました.その本を拝読すると,定年退官された後も癌の撲滅,早期発見,診療などに心血を注がれていた様子が手に取るように感じられます.あまりにも早くお亡くなりになったこと,本当に残念でなりません.
先生と私の出会いは1970年まで遡ります.当時,私は国立がんセンター研究所病理部,佐野量造先生のもとで胃癌を中心とした外科病理学の研修を行っていました.磨伊先生は厚生省(当時)が行っていた「早期胃癌の診断と治療に関する研修」に参加されるために国立がんセンターに来られました.そのときが先生との最初の出会いでした.当時,国立がんセンターは草創期を過ぎ,大きく発展していた時期で,特に胃癌の早期発見とその治療で熱気あふれていました.佐野先生のもとにも胃癌の病理を勉強するために全国から多くの先生が集まっていました.磨伊先生も胃癌診療のためには病理学的知識が必要とのことで,日夜研修に励んでいたことが今でも鮮明に思い出されます.その後,国立金沢病院に戻られましたが,いつも難しい症例を佐野先生のもとに持参されて臨床像と病理所見との対比を行い,胃癌の研究と診断に役立てていました.そのころ,先生は石川県胃腸疾患研究会を立ち上げ,多くの先生とともに早期胃癌診断の症例検討を熱心に行ってきました.そのため,石川県での胃癌研究は早くから成果をあげてきたと思われます.先生は胃癌の原因や形態発生にも大変興味を持たれ研究に励んでおられました.その業績が認められて金沢大学がん研究所の外科教授に若くして就任されました.その後の先生の歩みは先生が著された著書に詳しく書かれています.その中で感嘆するのは,亡くなられるまで,診療と研究以外に地域における活動を実践されたことです.前述したように石川県での早期胃癌診療の向上に努められ,多くの内視鏡医を育てられました.先生は外科医としてだけでなく内視鏡医としての活躍もめざましいものがあり,それが評価され第57回日本消化器内視鏡学会を開催されました.
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