連載 私の一冊・31
この国に正義はあるのか
池谷 薫
pp.1026-1027
発行日 2007年11月25日
Published Date 2007/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663100818
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- 文献概要
その小柄な老人は,寅さん映画のおいちゃん役,故下条正己に似た温和な笑みを浮かべて立っていた。映画『蟻の兵隊』の主人公,奥村和一と初めて会ったときのことである。その奥村が,戦争体験に話が及ぶと突然,怒りを顕わにした。想像を絶する話だった。出会った翌週には,段ボール3箱分の資料が私のところに送られてきた。
この20年,ひたすら中国を舞台にしたドキュメンタリーを撮り続けてきた私にとって,日中戦争は避けては通れないテーマの一つだった。元日本兵・奥村との運命的な出会いによって私は映画『蟻の兵隊』を完成させ,残留問題についてより深く掘り下げた本書を書き上げることになる。
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