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21歳で日本を飛び出し,世界放浪の旅の末,ケニアに住みついて10余年になる。旅に出たきっかけは,子供の頃から頭の中にこびりついて離れなかった問いに対する自分なりの答えを見つけたいという衝動からだった。人間はなぜ,何のために生きているのだろう。より良い生き方とはいったい何なのか。意味のあることを成し遂げないといけないのではないかというプレッシャーが,常に重くのしかかっていた。その反面,時おり理由のない虚無感に襲われ,投げやりな気分になることが自分でも不可解だった。多種多様な人生が存在するこの世界の中で,人間にとって普遍的な真実とは何であるかを知りたい。そんな思いを抑えきれず,あてのない長い旅に出たのだ。旅の日々は楽しかった。世界の様々な文化に触れ,そこに足を運ばなければ出会えなかった人々と語り合う喜び。私は旅に夢中になった。それでもふっとしたときに繰り返し戻ってくる問い。「結局のところ,人は何のために生まれ,生きているの?」。飽食している国があるかと思えば,飢えに苦しむ子供たちが溢れる国もあった。人間の命に優劣があるはずはないのに,その背後にある状況は決して平等とはいえない。旅を重ねていくうちに,喜びと苦悩は,同時進行で高まっていった。そんな旅を続けるうちに,私はアフリカに流れ着いた。
アフリカの旅は過酷だった。物資を満載したトラックの荷台で揺られながら,ジャングルの道なき道をひたすら進んだ。厳しい自然の中で暮らすアフリカの人々は,びっくりするほど優しかった。通りすがりの旅人に過ぎない私にすら,乏しい食べ物を分け与え,水を差し出した。別れるときには必ず,あなたの人生に幸福が訪れますように,旅が平安でありますように,と祈ってくれた。文明の利器や発達した国家システムに守られることもない質素な暮らしの中で,彼らは互いに助け合い,大いに笑って,思い切り楽しんで生きていた。彼らの放つ絶大な生命の輝きに,私は驚愕した。
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