連載 とらうべ
映画のすすめ
片場 嘉明
1
1厚生中央病院
pp.745
発行日 2001年9月25日
Published Date 2001/9/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611902715
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映画館と呼ばれる建物が,次々と街から消えていったのは,昭和から平成になったころではないかと思う。その頃,古きよき時代の映画館と,そこに集う人々をノスタルジックに描いたイタリア映画,トルナトーレ監督の「ニューシネマ・パラダイス」が話題を呼んだ。街から消え行く映画館への惜別とともに老映写技師とトト少年を軸にした人間模様は,懐古派だけでなく若き世代の胸を打った。懐古派の一人である私には,この作品で描かれた映画館が,うしろに「館」の付いた日本の映画館の消え行く姿と重なってみえたのである。
この映画を観る度に,欧米映画にうつつを抜かしていたガキの頃を思い出す。終戦直後の荒廃した日本では到底だし得ぬ臨場感と存在感が,洋画の世界にはあふれていたのである。ロードショウに行けるのは,お年玉をもらった正月ぐらいで,ふだんは小便臭い2本立ての映画館や名画座を渡り歩いた。どんな場末の映画館でもプログラムは売っており,昼飯代を削ってでも買い求めた。映画を観たあと,プログラムから仕入れたうんちくを傾ける楽しみもあった。古本屋であさった映画雑誌は,すぐに置き場に困り,屑屋にいく運命にあったが,紙4枚程度の薄いプログラムは,たとえ百冊になっても本棚の片隅に寄せておけばよかった。自分が観た映画の確かな証拠として,プログラムだけは捨てるに忍びなかったのである。映画に対する私の「こだわり」は,ここいらで始まったように思える。
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