特集 再検証・佐藤由美子さん出産体験
援助の基本としての「関係性」
岸 良範
1
1埼玉医科大学短期大学(心理臨床)
pp.927-932
発行日 1994年12月25日
Published Date 1994/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611901146
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関係の中で湧き上がるものとの直面
本誌1994年5月号の「佐藤由美子さんの出産体験をいかにうけとめるか」の一連の特別記事を,驚きと感動を持って拝見しました。その驚きと感動は,以下のように整理されます。
まず最初に,佐藤由美子さんという人そのものに対してです。いかなる状況においても,常に自分自身であろうとし,それも頭の中だけで自分自身であろうとしたのではなく,全身体・全チャンネルを駆使し,自分自身というものを把もうとしていたことです。そして,その時に自己完結的に自分を捉えていたのではなく,援助者たちとの関係の中で自分の内に起こってくるリアリティーをしっかり感じようとしていたことです。そのように関係に内属しつつも,限りなく自分自身であろうとする在り方は,他者(異なる人)に対しても,何の操作性も持たず,真正面から直面することになります。その中で,異なるもの同士が厳しくその存在を問うということを引き起こし,ゆえにその関係が限りなく創造的なものへと成長しつづけてゆく時の大きな力となったということです。そして,自分自身であろうとし,誠実に自分そのものを他者に向けてゆく姿は,多くの他者に従来の自明となっていた枠組みを一坦“括弧”に入れることを勧め,今,目の前で起こっているリアリティーに直面することを促すことになるわけです。
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