特集 産科医療事故を防ぐために
産科医療事故総論—賠償科学の立場から助産婦に係る過失の認否について
渡辺 富雄
1
1昭和大学医学部・法医学
pp.848-852
発行日 1994年11月25日
Published Date 1994/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611901128
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はじめに
産科の事故では助産婦に対し,妊婦・胎児・新生児などの異常に関する判断ミスや,助産所の清潔保持義務違反(助産所内感染)などの過失の有無を問われることがある(表1参照)。本稿では,とりわけ助産婦と助産所の過失行為が直接問題となった裁判例を中心に,賠償科学の立場から検討を加えることにする。
ところで,「賠償科学」とは一般に賠償医学と呼ばれている新分野のことである。賠償医学というのは従来の医学(狭義の医学)の一分野であろうと想像する既成概念は捨ててもらいたい。賠償医学よりも「賠償科学」のほうが適切な呼称であるが,学際(いくつかの異なる学問分野が関わる)領域に対する社会や学界の認識が未だ低いので,発祥の母体が法医学の現状刷新に意欲的な一部の法医学者と法律家との集団で結成されたので,その原籍を名乗っているにすぎない。賠償医学の居住地は原籍とは違う。ここで「賠償科学」という用語について述べさせていただいたのは,科学の各分野のセクショナリズムを打破することが意外と容易でないことを現実として許容しながら,この学問を発展させていかねばならないと考えるからである。
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