特別寄稿
医療事故のセイフティネット―無過失補償制度
長野 展久
1
1東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科司法医学・東京海上日動メディカルサービス
pp.47-51
発行日 2006年1月1日
Published Date 2006/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541100149
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1999年1月,横浜市立大学医学部附属病院の患者とり違え事件を皮切りに,大学附属病院や国公立病院,有名私立病院で発生した重大な医療事故が次々と報道され,医療に対する国民の不信感がますます増大している.そしてカルテ改竄が明らかとなった東京女子医科大学事件や,無謀な前立腺癌腹腔鏡手術を実施した慈恵医科大学附属青戸病院事件では,医師が刑事事件の被疑者として逮捕されるという前代未聞の事態となった.こうした医療行為をめぐる警察の介入は,警察庁への届出ベースでみると1),1997年には21件(立件送致 11 件)であったのに対し,2004年には255件(患者側の通報が約20%,立件送致10件)と10倍以上に増加している.
医療事故の中でも,単純なミスや思い違い,稚拙な医療行為などによって,患者に重篤な被害が及んだ場合には,医療者の責任が厳しく問われるのが当然であろう.ところが,まじめな医師たちが一定の臨床医学水準のもとに,真摯な態度で行った医療行為の結果が患者の期待通りでないと,「結果が悪かった」という理由で不毛な医事紛争へ発展するケースがかなり増えてきた.医師の立場では不可抗力と考えられるような症例であっても,患者側の納得が得られず法廷の場へと持ち込まれ,被害者救済の名目で信じられないような判決が下されることもある.
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