私と読書
新生児の人格の尊重を警告する書—「誕生を記憶する子どもたち」を読んで
原田 紀子
1
1聖路加看護大学
pp.942-943
発行日 1991年10月25日
Published Date 1991/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611900438
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胎児,新生児がもつ能力や新生児から見た出生体験については最近になって多く取り扱われるようになってきましたが,出生体験が精神発達に与える影響という視点から,1人の心理学者がまとめた大変興味深い本が出版されました。著者は精神的に何らかの問題のある患者を治療のために睡眠状態に導いたときに語られた出生時の記憶ということに関心をもち,研究をつづけて,本書にまとめました。本書は,特に母親に向けて書かれていますので,語りかけるようにわかりやすく,心にしみ通るように書かれており,優れた人間探求の本であると思います。
本書では第1章から第5章まで,新生児の知覚能力,学習・記憶,コミュニケーション能力について,現在までに行なわれた多くの研究がまとめて書かれています。科学技術,医療技術の発達に伴い胎児行動や新生児について多くのことが明らかになり,特に新生児のもつ感覚器・神経系の能力については驚くべきものがあります。赤ちゃんは無能なゆえに純粋無垢であると信じているものにとっては,驚異的であるかもしれません。しかし,もの言わぬ赤ちゃんではあるけれど,自分の子供を1人の人格者として認め,限りない愛情を注いできた母親は,赤ちゃんの非言語的なメッセージを知らず知らずに受けとっていたでしょう。専門家があれこれと研究する前に,赤ちゃんの秘められた能力に気づいていた母親もいたかもしれません。
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