連載 フランス出産事情—変わりゆく出産・助産婦・病院・1【新連載】
—連載を始めるにあたって—フランスでの出産と産育研究
舩橋 惠子
1
1桜美林大学国際学部
pp.308-312
発行日 1990年4月25日
Published Date 1990/4/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611900068
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運命のいたずら
人生というのは,思いがけない展開をするものだ。つれあいのフランス留学につきあいながら,私も出産・育児の日仏比較研究をするために,1986年8月,当時小学校1年と3年だった2人の息子たちを連れて,家族4人パリに渡った。私の留学受入れ先も,国立科学研究センター・フランス民族学研究所と決まり,フランソワーズ・ルークスさん(注1)の指導を受けることになっていた。ところが,当地での生活が落ち着く間もなく,生理が停止してしまった。そして,1987年6月,第3子をフランスの産院で出産した。2年間の滞在のうち大半を,出産・育児を抱えて過ごしたことになる。
この予定外の妊娠・出産をつうじて,私は多くのことを学んだ。まず,フランス社会やそこでの出産事情について,資料収集やインタビューなどの「外側からの」調査研究だけではわからない,「内側からの」リアルな理解が可能になった。このように実際に生きることをとおして研究を深めていくことを,社会科学の世界では,「参与観察」と呼んでいる。研究指導者のルークスさんをはじめ,フランスで親しくなった研究者たちは皆,私たちのアクシデントを好意的に迎え,この絶好の「参与観察」の機会を生かして研究の実りを豊かにするようにと励ましてくれた。
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