私と読書
人はいかにして恋するものとなるか,が体系的に分析される—「ラブ・アンド・ラブシックネス愛と性の病理学」を読んで
宮原 忍
1
1東京大学医学部母子保健学
pp.73-75
発行日 1988年1月25日
Published Date 1988/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611207306
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わが国ではジョン・マネーの名はバトリシア・タッカーとの共著,『性の署名』で知られているが,その発展ともいえる『ラブ・アンド・ラブシックネス—愛と性の病理学』が同じ訳者によって翻訳された。題名は直訳すれば「恋と恋わずらい」となるだろうが,内容は生物学から心理学,社会学を含むマネーの性科学・哲学(彼の用語によればセクソロジー/ジェンダーオロジー)の体系的叙述である。『性の署名』は"Man and Woman, Boy and Girl"という本を一般向けに書き直したもので親しみやすい本であるが,「ラブ・アンド・ラブシックネス」はそのしゃれた題名にもかかわらず,内容のずっしり詰まった労作で,難解と言わないまでも歯ごたえ十分である。
ジェンダー・ロール(性役割)という言葉は,今や専門家のみならず一般人の会話にも登場するようになったが,訳者の註によれば,もともとジョン・マネーが言語学の用語から借用して使い始めたとのことで,とくにジェンダー・アイデンティティ(性自認性同一性)とはコインの裏表であるとして,ジェンダー・アイデンティティ/ロールという形で用いられている。セックスとジェンダーの使い分けも,セックスは生物学的な性の側面,ジェンダーは心理・社会的な性の側面を表わす言葉として,用いられるのが普通だが,このような使われ方もマネーの意図とは異なるようだ。
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