グラフ
古美術にみる分娩光景
石黒 達也
1
1滋賀医科大学産婦人科学教室
pp.539-542
発行日 1984年7月25日
Published Date 1984/7/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611206475
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
現代の感覚からみると,お産の場面が美術の対象になるとはとても考えられないのだが,今に伝わる古美術の中にはお産の場面を描いた絵画が意外に多い.
お産は,いにしえの女性にとって多くの危険を伴う人生の一大事であったに相違ない.帝王切開はもとより,吸引分娩や鉗子分娩もない時代なので,ひとたび異常が起こると母児共に死の転帰をたどることは避け難い宿命であった.このような時代にあって,人々はお産を神聖な人間の営みとみる一方,人間のもって生まれた苦相ともみなしていたようだ.法然上人絵伝(写真3)などの高僧伝は,頻々分娩の模様から描き始めているが,これなど分娩を神聖視している現われであろう.また,経典絵や縁起絵にみる分娩の図(写真4,5,6)は,衆生が業に従って住む六道(ろくどう)(天道,人間道,修羅道,畜生道,餓鬼道,地獄道)や難産の事例を描くことによって,人間の苦相が信仰によって救済されることを説いている.
Copyright © 1984, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.