ぶっくがいど
美術
石崎 浩一郎
pp.49
発行日 1964年3月10日
Published Date 1964/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203063
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このごろの絵はワカラナイ――というのが"常識"です.理由はいくつもあります.20世紀にはいってからの美術は目にみえる世界をカンバスに写しとる"写実"を写真や映画に任せて,人間の内部の直接的な表現におもむきました.現代美術がわからないという苦情はもっぱら"写実"についての偏見と無縁ではないでしょう.絵をはじめるにはタイクツな石膏デッサンからはじめて年期をいれた修業を積まねばならないという19世紀的な美術教育とも無縁ではありません.石膏デッサンがきらいな人,机の上のリンゴを写生することがムナしく思える人には別な通路があるはずです.今世紀にはいってから多くのエコールを開拓した才能ある画家たちは,多くのそのような通路を用意してきました.面倒くさい芸術的手続きのために,本来的な人間の喜びや生命力をカンバスから奪いとられるとすれば,じつはそのほうがはるかに問題ではありませんか.
これから絵をはじめる人のために,あるいは美術を理解しようとしている人たちのために,たとえば岡本太郎の「今日の芸術」をあげます.10年前に出版され画壇に衝撃を与えたこの本は,光文社のガッパ・ブックスとして再版された現在でも,最初のヴァイタリティーを失っていません,最もわかりやすいコトバで書かれたこの本は"美術入門"の啓蒙書であると同時に,注意深い読者には一つの強烈な主張に貫かれた"あなたへの挑戦状"でもあります.
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