産育習俗今昔
6.胞衣の扱い方—子供の分身として
鎌田 久子
1
1成城大学
pp.511-514
発行日 1982年6月25日
Published Date 1982/6/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611206041
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生涯の怖れ
知人の,ある高校の校長先生は,その恰幅のよい身体に似合わず,ねずみが怖いといわれている。お孫さんがねずみの絵を書いた紙片をもってきても気味が悪く,不快になるとか。その先生の言葉によると,生まれたとき,胞衣を埋めた上を一番初めにねずみが通ったのではないかと思い,まじないもしたが,直らないのですという。東北地方御出身の,美術史家である先生は,真面目な顔をして,六十何年か前の胞衣の始末の仕方を云云されていた。
この地方では,胞衣の埋め方によって,その子供の将来の禍福が左右されると信じ,その年の良い方角といわれる方に埋めるとか。人の踏まない所に埋めるとか,陽の当らぬ所などといい,さらに埋めた後を,最初に踏んだものを,その子供が怖れるという。長虫が通れば長虫,先の知人のようにねずみが通ればねずみ,したがって,埋めた直後,父親が踏んでおけば子供が成長して,父親を怖れるようになるので,まず父親が踏んでおくという所もある。その知人の話によると,ねずみという高薬をきいただけでも気味が悪い,不思議な感じだというのである。原因は胞衣の埋め方だけではなかろうが,胞衣の埋め方に作法のあることを教えてくれるものである。
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