産育習俗今昔
5.もう一つのお産革命—産む,産ませてもらうの相違
鎌田 久子
1
1成城大学
pp.422-425
発行日 1982年5月25日
Published Date 1982/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611206025
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心がまえ
お産革命という言葉が昨今流行したが,お産革命は昭和の今日だけではなく,明治期から大正初期にかけ,新しい教育を受けた助産婦が町や村に普及する頃にも,一つの大きな変革がみられた。そのときのお産革命は産婦の姿勢,出産のあり方に起きた。坐産から平産,寝産の出現といってよいかもしれない。昔は野蛮だから寝かしてもらえず,苦しかったという古老の話を,昭和20年代になってからもよく耳にした。と同時に,「昔は安産だったのに,どうしてこの頃は難産が多いのだろう。私は楽に産んだのに,嫁は難産だった」という,多少姑根性を含んだ言葉もよくきいた。昔はよかったという懐古趣味だけではなく,何かそこには原因があるのではなかろうか。坐産がいい,平産がいいというのではなく,出産する,産むという心がまえ,目に見えることとしては出産時の型であるかもしれないが,自分が産むのだという気がまえということに,差があるのではなかろうか。
出産は自然現象であるから,本来は1人でできるものであるかもしれない。現に南西諸島の与論島では,女は1人で産むものだといい,出産直前まで労働をし,畑で出産して腰巻に包んで帰った人もあるとか。産婆に介助してもらうようになったのは昭和15年頃からで,それまでは姑が助けてくれたという。天井から牛をつないでおく綱を下げ,それを両手でしっかり握り,下腹に力をいれる。
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