特別寄稿 乳房の看護技術・2
助産婦による乳房マッサージの意義
藤田 八千代
1
1神奈川県立衛生短期大学
pp.385-390
発行日 1982年5月25日
Published Date 1982/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611206020
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はじめに
かつて,わが国においては,母乳による育児が圧倒的趨勢を占め,母乳の出ない母親は母として失格であるかのようにみられたり,また母親自身も母乳の出ないことを恥じるほど,きわめて自然に母乳育児が受けいれらていた。その母乳育児に変容の兆しが現われ始めたのは,戦後も5〜6年を経た頃であったろうか。当時産科の臨床においては早期授乳が提唱され,母児に異常がなければ生後6時間ないし8時間で直接授乳が開始されていた。今ほど産婦は緊張もせず,疲労もせずゆったりと産褥生活を送っていた頃である。母乳確立の程度は,80〜90%に及び,今にして思えば理想に近い状態であった。また一方では早期離床が唱えられ,施設内では産後1週間の安静(当時は排泄介助をしていた)を,5日間に短縮する形で,実行改善されようとしていた状況下での話である。
ところが急激に施設内分娩が増加し,助産婦数の不足が深刻化しようとしていた時代でもあり,産婦の母乳分泌の状況に少しずつ変化がみられ,乳房緊張の乏しい,いわば母乳分泌不良の産婦がしだいに増え始めていた。それまでは今ほど乳房マッサージを必要とせず,早期直接授乳を実施するだけで(もちろん一般状態は良好であることが前提の上ではあるが),十分母乳は確立されて退院を迎える産婦が少なくなかった。ところが乳房マッサージを行ない意識的に乳汁分泌促進をはからなければ,母乳不足をきたす産婦が増加してきたのである。
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