特集 母子関係論—その最近の成果
乳児期初期の行動発達—母子関係形成の基礎として
高橋 道子
1
1東京学芸大学教育学部
pp.661-666
発行日 1981年9月25日
Published Date 1981/9/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611205898
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I.はじめに
一見すると,人間の乳児は非常に頼りない状態で生まれてくる。動物の一員でありながら,その名の示すとおりに自分の力で移動するには約1年もの期間がかかる。このような未熟な状態の間を乳児がうまく生きてゆけるためには,親による愛情に満ちた世話を何よりも必要とする。しかもそれは,親と子がしっかりとした心の結びつきを持っていればいるほど,うまくいくはずである。
では,そのような心の結びつきは,いつ,どのようにしてできてくるのだろうか。従来,発達初期における母子関係は,母親が子どもに対して積極的にかかわることによって,親の側から一方的に子どもに対して作っていく関係であるかのようにとらえられてきた。しかし,新生児や乳児の行動に関する心理学的研究がすすむにつれて,生後間もない時期から,新生児はすぐれた感覚的・知覚的能力を使って,積極的にまわりの世界とかかわっていくことのできる存在であることがわかってきた。一般に考えられているよりも,はるかによく,ものを見たり,聞いたり,考えたりすることができる。
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