特別企画 産後神経症の周辺
ケース・レポートを読んで
精神科の立場から
産後精神障害の問題点
鳩谷 龍
1
1三重大学医学部精神科
pp.473-475
発行日 1977年8月25日
Published Date 1977/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611205244
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はじめに
この症例は,第1子分娩後にも一時神経症的な状態を示しているが,その時は実家の破産,両親の夜逃げというような事件が時期的に重なつている。しかし,今回の第2子出産後は特に表立った事情もなく,患者は易刺激的となり,次第に呆然として家事や育児に無関心な状態に陥つている。そのためか夫婦仲も悪くなり,夫に対する嫉妬妄想や被害妄想が発展し,異常行動が目立つようになっている。入院時は困惑的で,不眠,焦躁を訴え,多弁であるが,思路は支離し,軽度の意識障害を思わせる病像であったところから,アメンチアあるいは錯乱に近い状態であったと思われる。このことは的確な治療により急速に病状が改善し,2週間後には一応退院可能な状態に復したことからもうなずけるところであり,産後精神病の典型例といえよう。報告者も強調しているごとく,本例においては身体面での異常は見当らず,患者自身の人格構造と,夫をはじめとして患者をめぐる人たちとの人間関係の問題が,産後の状況を舞台として露呈し,発病への契機となったと見られている。この点も産後の精神病や神経症に多く見られるところであり,この点を考慮した上での入院への導入と入院後の適切な治療的・看護的対応が,急速な病状改善にあずかって力があったと思われる。以下,産後精神障害の問題点を本例に即して述べてみたい。
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