- 有料閲覧
- 文献概要
新生児黄疸が異常に強くなると,核黄疸という脳の神経核の黄疸を示し,死亡するか,生存しても脳性麻癖を残すことは,すでによく知られている事実です。核黄疸Kernicterusというのは,脳の全般的なビリルビンによる黄染ではなく,特有の神経核のみの局所的黄染(黄疸)をいうのは皆さんもご存知でしょう。そして,今日までの多くの研究や経験から,成熟児では血中のビリルビン値が20〜25mg/dlとなったら,交換輸血によって血中のビリルビンを除去しないと,核黄疸になる可能性のあることが報告されています。
胎児時代は非常に多血症だったのですが,新生児期になるとそんなに沢山の赤血球がいらなくなるので不必要な赤血球は清血し,ヘモグロビンが出てきます。このヘモグロビンはそのままでは排泄されないので,ビリルビンに代謝されますが,できたビリルビンは間接型なので脂肪性のため,皮下脂肪に沈着し黄疸となり,皮下脂肪組織が満員になると脳の神経核に向かうということになる理論です。しかしこの理論には,今日では色々と解明しがたい点が多々あることがわかってきました。血中のビリルビン値が40mg/dlなどというなら,核黄疸となっても仕方がないでしょうが,ある症例ことに未熟児では,最高の血中ビリルビン値が10mg/dl以下という非常に低い値でも,死後に剖検してみると立派に核黄疸が証明されるという事実が多く報告されるようになり,このような低いビリルビン値の症例がどうして核黄疸をひき起こすのかが,重大な研究課題となってきたのです。 こういった問題の研究には,私たちのような臨床実地医家の研究もさることながら,基礎医学での実験的研究が大変ものを言うのです。実験的に動物に核黄疸をひき起こす,作り出すということは,ずい分古くから行なわれていたのですが,これには大変な苦労が必要でした。まずサルで核黄疸を作ることに成功し,ついでブタやネズミの新生仔にビリルビンを多量に投与して核黄疸を作り,色々の実験が行なわれました。しかしこれらの研究はすべて,人工的に非常に多量のビリルビンを投与して核黄疸を作ったという出発点から,私たちが臨床的に困っている低血中ビリルビン値による核黄疸とは根本的に異なっていたのです。
Copyright © 1974, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.