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日本瞥見—著者 ヨェルグ・シュマイサー
塩原 経央
pp.66
発行日 1971年12月1日
Published Date 1971/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611204296
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若いドイツ人画家ヨェルグ・シュマイサーの版画集が読売新聞社からな行された。それは多分,ことさら刊驚きではあるまい。しかし,なかに収められた作品が,一部を除いてほとんど日本の風景であり,日本の文物であり,そして心象の「古事記」であると知ったら,少なからざる好奇心もわいてこよう。さらに,それが文化的辺境を自認してきた日本の画法を,鋭い感覚で体得した異国人の手になる木版や水墨画や銅版やペン画だと知ったら,異国人崇拝癖のあるわが日本人は,おそらく好奇心にぞくぞくしつつ,手に入れたいと思うにちがいない。
そして,多分ページを繰るごとに,ひとつずつ感心したようなうなずきと溜息とを,この本に投げかけるかもしれない。けれども,二度目に最初にもどってしげしげと見つめるとき,人びとは皮相な好奇心の下の,もっと心の深い部分をはげしく動かされるだろう。これはドイツ人画家が日本絵画の様式や日本文化のエスプリを模倣したものではない。芸術衝動の根源が,作品のひとつひとつにみなぎっている,と。
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