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最近,特に乳癌の外科治療の面においてsentinel node navigation surgery(以下,SNNS)という新機軸の外科手術が普及してきているが,従来,このSNNSという手技の嚆矢は1977年のCabanas1)であるとされてきた.1977年,Cabanas1)は陰茎癌の手術に際してまず「センチネルリンパ節(sentinel lymphnode:以下,SLN)生検」を行い,ここに転移がある場合にのみ,鼠径部のリンパ節郭清を行うという治療を提唱したのである.その後,1992年にアメリカのMortonら2)が悪性黒色腫において色素を用いて行うSLN生検とそれに引き続くSNNSを提唱して以来,癌の外科的治療においてSNNSという概念が定着し普及していったというのが定説になっているかと思う.
しかし,文献を振り返ると,癌の周術期に色素を用いて所属リンパ節を染めようとするアイデアは1950年にイギリスのWeinbergら3)が胃癌の手術においてすでに提唱していたのである.そして,諸家が指摘しているように筆者もこれがSNNSというアイデアの嚆矢と考えていたが,最近になって,胃癌の手術に際して「周術期にリンパ節を染めて,これを目安に郭清を行う」とするアイデアがWeinbergより前に提唱されていたことが判明した.1946年の日本外科学会誌(第47回)に九州大学第1外科の石山福二郎が「胃癌手術の再検討」という抄録文を発表しており,このなかに「色素を用いてリンパ節の生体染色を行う」ことを明言している(図1).胃癌手術の大家といわれたMikuliczに師事した三宅速の跡を嗣いだ石山は,三宅速による創設以来,同教室が経験した3,000例を超える胃癌の治療成績をまとめるとともに,治療成績を向上させるための工夫として「色素によるリンパ節の生体染色」を導入したと報告したのである.すなわち,「墨汁を注入するとリンパ系の広がりが明瞭となり,かつ墨汁に染まったリンパ節には転移の可能性がある」という観点に立って,系統的にかつ徹底的にリンパ節を摘出(郭清)するように努めたとしている.以後,石山一門はこのような手術を「廓清的切除術」と呼んだが,「リンパ節を染める(具体的には,開腹と同時に癌が存在する部分の周辺の漿膜下5か所に墨汁を打ち込む方法)」という手技についてはこれといって命名していない.しかし,この「墨汁によるリンパ節の生体染色」は内容的には近年言われ出したSNNSの概念とほぼ同じで,その走りであると言ってよい.
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