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I.はじめに
いまや,Rh因子およびその不適合にもとつく新生児溶血性疾患(あるいは胎児赤芽球症)という名称を知らない人はいないと思う。しかし新生児溶血性疾患(以下同義語である胎児赤芽球症という名称は省略し,かつHDN(=hemolytic disease of thenewborn新生児溶血性疾患)と略記することとする)とみなすべき疾患はきわめて古く,西暦紀元前400年HipPocratesによって記載されているほどである。しかしそれに比べるとHDNの原因ないし本態の解明や治療法の発達などは,きわめて最近というべきであり,新しく拾頭してきた疾患ということができる。
しかしHDNの発生頻度は決して大きいとはいえず,ことにRh0(D)因子(通常単にRh因子と称する場合はこのRh0(D)因子を意味する)の陰性率が僅少である本邦(約0.5%で白人(約15%)に比しほぼ1/30)ではとくにまれである。したがってとくに本邦では,Rh因子――HDNに関する研究の開始当初(昭和24〜26年頃)には,ともすれば稀有な疾患として軽視されるきらいがないでもなかった。しかし近年,① 新生児重症黄疸が,その合併症たる核黄疸(以下KI(=kernicterus)と略記する)が脳性小児麻痺の有力原因の一つであることによって,とみに注目を惹きつつあり,HDNのうちで最も多い黄疸型は新生児重症黄疸の典型であって,KIへの直結性が最も濃厚であること② ①に述べたことをも含めて,世界的傾向として周生(産)期児死亡あるいは罹病(perinatal infant death or morbidity)の減少に積極的な努力が払われつつあるが,HDNはこの周生(産)期児死亡または罹病という概念に最もピッタリする性格のものであること,等々の理由によって,本邦でも俄然クローズアップされ,いまや産婦人科関係者にとっては,HDNに関する知識は必須のものとなっているわけである。そして本特集号が計画された意図もここにあるものと考えられる。
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