婦人ジャーナル
働く妻の転勤たくましいカギっ子
山主 敏子
pp.65
発行日 1970年7月1日
Published Date 1970/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203958
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婦人公論5月号に思いがけず昔なつかしい執筆者の名前を発見してびっくりした。それは"共働き夫妻と転勤の問題"という山川菊栄氏の評論であった。山川女史といえば戦後は労働省婦人少年局の初代局長になったことで知られている。しかし本来の山川女史は役人などとは縁の遠い在野の評論家として戦前の長い歳月を婦人解放のためにたたかってきた人である。もうお年も80歳前後になっておられることだろう。その女性の先覚者が,婦人雑誌のなかの記事に強い批判を抱かれ,この評論を"投稿"として寄せられたという。その婦人問題への消えることのない情熱が,まずわたくしをおどろかせたのであった。
山川氏が問題にした記事というのは,同誌4月号にのった"会社の中の男性"のなかの中根千枝・山口瞳両氏の対談である。その問題点というのは,会社へ勤めている共働きの女性に地方の支社へ行けと命令しても,まず行くことを拒否するが,それは女性の認識不足であり,共産圏の働く女性なら,みんな行くとのべている点である。山川氏はいう。共産圏をふくめて諸外国とも,決して共働きの夫婦を別々の地方で働かせるような無理はしていない。どこまでも本人の希望にまかせている。人間の生活も家庭もどうなってもいいから資本の利益に奉仕せよというのが日本の企業のたてまえだから問題が起こるのだと説いている。そして最近しばしば起こった夫婦同居をかちとる訴訟とその勝利を語り男女にかぎらず不当配転とは断じてたたかうべきだと結論するあたり,昔ながらの明快な論旨であった。きたえぬかれた名刀のきれあじとでもいいたい評論だった。
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